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積載物の特性やコストで決まるタンクローリーのタンク素材 (鉄鋼・ステンレス・アルミ合金)

タンクローリーは、石油や薬品、セメントや食品など、様々なものを積載します。そのため、積載するものの性質に応じて、タンクの材質には様々な素材が利用されています。また、タンク自体かかるコストも、タンクの材質を選ぶときのポイントです。

今回は、タンクの材質として用いられる鉄鋼・ステンレス・アルミ合金という主要な3つの金属に着目し、その特徴や用途をみていきます。

普遍的に用いられる鉄鋼

バラセメントを運ぶ鉄鋼製タンクローリー
バラセメントを運ぶ鉄鋼製タンクローリー

鉄鋼は、最も広く用いられているタンク素材です。鉄鋼とは、2%以下の炭素を含む鉄のことで、炭素含有量が増加すると固くなるという鉄の性質を利用したものです。

タンクローリーのタンク素材には、鉄鋼材の一種である一般構造用圧延鋼材というものが使用されます。JIS規格 (JIS 3101:2015) では、SS330, SS400, SS490, SS540という4種の一般構造用圧延鋼材が規定されています。

SSとはsteel structure (構造用材) の略です。それぞれ引張り強さが異なり、SS330が330-430 (N/mm2)、SS400が400-510 (N/mm2)、SS490が490-610 (N/mm2)、SS540が≧540 (N/mm2) となっています。引張り強さの最低値が鋼材の名称に採用されているわけです。

タンクローリーの鉄鋼材として主に使われるのはSS400です。鋼材といえばSS400というぐらい、あらゆる分野で幅広く利用される鋼材です。

ほかに、一般構造用圧延鋼材より強度を高めたハイテン (high tensile strength steel sheets: HITEN) と呼ばれる高張力鋼材が用いられる場合もあります。LNGLPGといった高圧ガスを運ぶタンクローリーに採用されています。

腐食に強いステンレス

硫酸を運ぶステンレス製タンクローリー
硫酸を運ぶステンレス製タンクローリー

耐食性を向上させるために、クロム (Cr) やニッケル (Ni) が含まれた鉄鋼をステンレスと呼びます。一般的な鉄鋼よりも腐食に強いことからstein (よごれ・キズ) less (少ない) という名前がつきました。

ステンレスが腐食に強い理由は、金属表面に酸化被膜が形成されるためです。酸化皮膜は最大でも3nmと極めて薄いものの、非常に不活性で化学的に安定した不動態であるため金属表面を保護することができます。

また、ステンレスは酸化皮膜が破れても自動的に再生する自己修復機能をもちます。皮膜が失われると、ステンレス内部のクロムと大気中の酸素と水が反応して、元どおりの皮膜が形成されます。クロムも酸素も水もほぼ無限に供給できるため、何度でも繰り返し自己修復が可能です。

ステンレスの再不動態化
ステンレスの再不動態化

ステンレスは、成分として含まれる物質によって、クロム系 (Cr系) 、ニッケル-クロム系 (Ni-Cr系)とその他の3種に分類できます。Cr系は主成分として鉄とクロム、Ni-Cr系は鉄とニッケルとクロムを含みます。

成分以外に、鉄の金属組織によっても分類が行われます。金属組織とは、結晶の状態のことです。一般的に、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、析出硬化系、オーステナイト・フェライト系の5種に分類されます。成分による分類と、金属組織による分類の関係性は下図のようになっています。

ステンレスの分類図
ステンレスの分類 (大同特殊鋼のウェブサイトをもとに作図)

金属組織による分類のうち、主なものはマルテンサイト系とフェライト系、オーステナイト系の3つです。

マルテンサイト系ステンレスは硬さに優れた鋼材で、刃物や軸受など硬さが求められる用途に利用されます。一方で耐食性は他の系のステンレスよりも劣ります。

フェライト系ステンレスは耐食性や強度が特段優れているわけではありませんが、成型性に優れ、比較的価格が安いのが利点です。腐食環境がそれほど厳しくない建築内装や厨房などの場所で利用されます。

3つの中でもっとも一般的なステンレスがオーステナイト系です。耐食性が高く、延性や溶接性なども優れています。そのため、家庭用品から原子炉の内張りまで、幅広い分野で活用されています。

JIS規格によっても、ステンレスは100種以上に分類されています。この中で最も使われているのが、SUS304と呼ばれるステンレスです。SUSとは、steinless used steel (ステンレス鋼)の略です。オーステナイト系ステンレスの一種で、世界で利用される約7割がSUS304となっています。

タンクローリーのタンク材にも、SUS304が使われています硫酸水酸化ナトリウムといった化学薬品を運ぶケミカルローリーで採用されたり、高圧ガスタンクの低温脆性への対策としてタンクの内側に貼られることもあります。

他にも、SUS304と同じくオーステナイト系に属するSUS316Lも使われます。SUS304よりもニッケル含有量が高く、さらにモリブデン (Mo) を添加することで耐食性を高めたものです。

軽量さがウリなアルミ合金

小麦粉を運ぶアルミ合金製タンクローリー
小麦粉を運ぶアルミ合金製タンクローリー

AlK(SO4)2•12H2Oで表されるミョウバン (alum) が名前の由来のアルミニウム (Al) は、軽量で展性や延性に富む銀白色の金属です。

純粋なアルミニウムは強度が低いため、亜鉛 (Zn) やマグネシウム (Mg) 、銅 (Cu) などを加えて強度を増したものがアルミ合金です。航空機用資材として使われるジュラルミンも、アルミ合金の一種ですね。ジュラルミンには、アルミニウム以外に銅とマンガンとマグネシウムが含まれます。

ジュラルミンが使用された初期の飛行機
ジュラルミンが使用された初期の飛行機

アルミ合金は、用途や性能、どのような元素を添加したかによって様々な種類に分類されます。

まず、プレスや鍛造などの展伸加工に適した展伸材と、砂型や金型に流し込む鍛造に適した鋳物材に大別できます。それぞれ、高温下での加工で強度が得られる熱処理合金と、低温化で強度が得られる比熱処理合金に分けられます。さらに、Al-Mn系やAl-Zn-Mg系など、添加元素の種類によっていくつもの種類に分類されています。

アルミ合金の分類
アルミ合金の分類 (メカトロネットの資料をもとに作図)

これらのアルミ合金には、JIS規格によって合金番号と呼ばれる記号が付与されています。アルミ合金の合金番号は、AXXXXという基本構造を持っています。頭のAはアルミニウムを意味し、残りの4桁の数字によって添加元素や合金の形状、性質などが示されます。

では、タンクローリーのタンク材質として、どのようなアルミ合金が用いられているんでしょうか。アルミ合金製タンクローリーを製造するメーカーのウェブサイトや、オンラインで公開されているカタログに目を通してみました。が、いまのところ合金番号の記載をみつけることはできていません。

ただ、各所で公開されているアルミ合金の用途指針によると、合金番号A1050は耐食性、加工性、溶接性等が良好で、用途例として化学工業用タンクと書かれています。化学薬品を積載するタンクの材質には、A1050が使われているのかもしれません。

多くの種類があるアルミ合金ですが、すべてに共通するのは、鉄や銅などの金属に比べて軽いということです。タンクをアルミ合金にすることで車重が軽くなり、より多くのものを積むことができます。また、アルミ合金には毒性がなく、食品の輸送にも適しています

となると、タンクの材質としてアルミ合金がスタンダードになりそうな気がしますが、実際にはそうではありません。なぜかというと、アルミ合金は高価で、さらに加工が難しいという欠点があるためです。製造にコストがかかるので、費用対効果を考えると鉄鋼やステンレスで十分なケースが多々あるということでしょう。

そんなアルミ合金製のタンクローリーを製造するメーカーとして有名なのは、昭和飛行機工業です。他社に先駆けてアルミ合金製タンクローリーを開発し、国内シェア約3割を獲得しています。

特徴と用途のまとめ

鉄鋼とステンレスとアルミ合金という、タンクローリーのタンク素材として用いられる3種の金属の特徴と用途についてみていきました。

鉄鋼は鉄に炭素を添加して強度を上げたもので、多くのタンクローリーで採用されています。ステンレスは鉄鋼にクロム等の元素を加えて耐食性を向上させた素材で、腐食性の物質を運ぶ際に活躍します。アルミ合金はアルミニウムに亜鉛等の元素を添加して強度を上げたもので、軽量化による輸送コストの削減や、毒性がないことから食品輸送に利用されます。

各金属の性質や価格といった特性に応じて、用途が決まってくるところが面白いですね。今回取り上げなかった、チタンやFRPについても今後紹介できればと思います。

参考文献

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