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危険だけど肥料や顔料製造に欠かせない「硫酸」

タンクローリーの積載物紹介シリーズ、第7回は硫酸です。

危険な薬品というイメージの強い硫酸ですが、数千リットルの硫酸を積んだタンクローリーが今日もどこかで走行しています。なぜこんな危険な薬品が大量に流通しているんでしょう。また、危険な硫酸を運ぶタンクローリーがどんな特徴をもつのかをみていきます。

硫酸は最も生産量の多い無機化学薬品の一つ

学校での化学実験で頻繁に用いられる硫酸 (H2SO4) ですが、工業的にも広く利用される物質です。以下のグラフは2017年における主な化学製品の生産量を表したものですが (経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編 平成29年)、か性ソーダ (水酸化ナトリウム) や塩酸といった馴染み深い製品よりも生産量が多いことがわかります。

例えば、窒素肥料や雪面硬化剤として用いられる硫酸アンモニウム (硫安) は、硫酸とアンモニアを反応させることで作られます。また、絵具や塗料の顔料として用いられる酸化チタン (TiO2) は、酸化チタンを含む鉱石イルメナイトを硫酸で分解して製造されます。

こうした用途があるため、プラントで製造された硫酸はタンクローリーによって各工場に向けて出荷されます。なお、日本では接触法と呼ばれる手法によって硫黄を酸化することで硫酸を製造しています。

耐薬性の高いテフロンライニング

硫酸は極めて酸化力が高い薬品なので、これを輸送するためには耐薬性に優れたケミカルローリーが必要となります。

硫酸を運ぶステンレス製ケミカルローリー
硫酸を運ぶステンレス製ケミカルローリー (メーカーは不明、運輸会社は中京陸運)

耐薬性・耐食性に優れたタンク素材として、一般にはステンレスが使われます。上の写真のタンクローリーも、タンクの材質はステンレスのようです。

また、このタンクローリーにはテフロンライニングが施されています。ライニングとは表面を皮膜で覆う処理のことなので、タンク内側はテフロンによってコーティングが施されていることになります。テフロンはほぼ全ての薬品に耐性をもつので、硫酸のような酸化力の強い薬品であっても安定して輸送することができます。

「硫酸」か「濃硫酸」か

これまでに見かけたなかで、硫酸を積んだタンクローリーは品名として「硫酸」と表記されたものと「濃硫酸」と書かれたものの2種類がありました。先に紹介したテフロンライニングされたタンクローリーでは「硫酸」となっていますが、下の写真のタンクテック製タンクローリー には「濃硫酸」と書かれています。

濃硫酸を運ぶタンクテックのタンクローリー
濃硫酸を運ぶタンクテックのタンクローリー (運輸会社は丸運)

濃硫酸とは、濃度90%以上の硫酸を指す言葉です。関連する語として、より濃度の低い硫酸は希硫酸と呼ばれることが一般的です。ただ、硫酸協会の定めた規格 (硫酸-2010) によると、硫酸は濃度や品質によって以下の5種に分類されるようです。

  • 薄硫酸 (H2SO4濃度 60%-80%)
  • 濃硫酸 (H2SO4濃度 90%-100%)
  • 発煙硫酸 (SO3濃度 15%-35%)
  • 精製希硫酸 (H2SO4濃度 27%-50%)
  • 精製濃硫酸 (H2SO4濃度 90%-100%)

ここでは、「希硫酸」ではなく「精製希硫酸」という語が使われています。また、「希硫酸」に似た「薄硫酸」という語が登場します。

精製希硫酸と薄硫酸の違いは、濃度と純度です。精製希硫酸の方が低濃度ですが、不純物が少なく純度が高いのが特徴です。

タンクローリーに記載の「濃硫酸」は、硫酸協会の規格における「濃硫酸」か「精製濃硫酸」のいずれかでしょう。

分からないのは、「硫酸」と書かれている場合です。この表記だけでは、どの規格の硫酸が積載されているか判別することができません。どんな硫酸が積まれているんでしょうか。

なお、硫酸は毒物及び劇物取締法において劇物に指定されている薬品です。そのため、硫酸を運ぶケミカルローリーには「」と「医薬用外劇物」の標識が掲げられています。

参考文献

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