メニュー 閉じる

「JET燃料」はジェットエンジンを動かす高性能燃料

タンクローリーの積載物紹介シリーズ、第3回はジェット燃料です。ジェット燃料とはどのような燃料なのか、どんなタンクローリーによって運ばれているのかをみていきましょう。

ジェットエンジンの種類と動作原理

ジェット燃料とは、その名の通り航空機のジェットエンジンに使用される燃料です。そもそも、ジェットエンジンはエンジンの排気噴流(jet)の反作用によって推力を得る装置に対する通称で、広義にはターボジェットエンジンやターボファンエンジン、ラムジェットエンジン、パルスジェットエンジン、そしてロケットエンジンが含まれます。このうち、ターボジェットエンジンとターボファンエンジンが一般航空用として用いられています[1]。

ターボジェットエンジンとターボファンエンジンのどちらも、圧縮機燃焼室タービンという3つの基本要素からなっています。圧縮機で圧縮した空気を燃焼室で燃料とともに燃焼させ、生じた高温高圧のガスによってタービンを回します。タービンの回転は圧縮機の動作に使われ、さらに排気ガス噴流として推力を得ることができます。

ターボジェットとターボファンの違いは、圧縮機の前方にファンがあるか否かです。ターボジェットエンジンにはファンはありませんが、ターボファンエンジンの圧縮機前方には巨大なファンが設置されています。

ターボファンエンジンの動作アニメーション(Wikimedia Commons)

ファンによって圧縮された空気の一部はエンジン内部を通らずにそのままエンジン後方へ排出されます。よって、エンジン後方からはファンを通っただけの排気ガスとタービンを経た排気ガスという2つのガスが排出されることになります。

ファンを通っただけのガス=エンジン内部をバイパスしたガスとタービンから出るガスの重量比をバイパス比とよびますが、バイパス比が高くなるほど亜音速における推進力が向上します。また、燃費の改善や排気騒音も低減されるという優れた特性を持つため、ターボファンエンジンは近年の航空機用エンジンの主流となっています[1]。

ターボジェットエンジンHF120を搭載したホンダジェット(Wikimedia Commons)

ジェット燃料に求められる7つの要件

ジェット燃料は、ジェットエンジンの燃焼室で圧縮空気とともに燃焼されます。燃焼によって生じる排気ガスがジェットエンジンの推進力となります。

航空機用ジェットエンジンの燃料となるわけですから、安全性や効率の観点から以下のような性能が要求されます[1]。

  1. 発熱量が大きいこと
  2. 揮発性が適当であること
  3. 安定性が良いこと
  4. 燃焼性が良いこと
  5. 凍結しにくいこと
  6. 腐食性がないこと
  7. 安全性が高いこと

1. 発熱量が大きいこと

このうち、発熱量は航空機の燃費に直結する要素で、発熱量が大きいほどより長距離・長時間の運行が可能となります。ジェット燃料は炭化水素を主体とする石油の分留成分ですが、発熱量は炭素よりも水素のほうが大きいため、水素原子比率の高い炭化水素(芳香族よりもパラフィン族)が望まれます。

2. 揮発性が適当であること

揮発性は、エンジン始動性や燃料の供給系に影響を与える要素です。揮発性が低いと寒冷時にエンジンの始動性が悪化し、逆に高すぎると気化した燃料が配管を閉塞することで燃料供給が阻害されてしまいます(ベーパ・ロック現象)。揮発性は低すぎず高すぎず、適当なものでなければいけません。揮発性の基準として、留出温度という指標が用いられます。蒸留をした際に規定量が蒸発するまでの温度が留出温度です。ジェット燃料の種類によって留出温度の基準は異なりますが、10%留出温度(10%の燃料が蒸発する温度)や20%留出温度等の最大値が定められています。

3. 安定性が高いこと

ジェット燃料の主成分は炭化水素ですが、エチレンやプロピレン、ブタジエンなどの二重結合を含む炭化水素(いわゆるオレフィン族炭化水素)が含まれていると、これらが酸化されてガムが生じます。ガムは配管に溜まってしまうので、やがて燃料系に不具合を引き起こします。そのため、ジェット燃料にはオレフィン族炭化水素の最大含有量が定められています。

4. 燃焼性が良いこと

「燃焼性が良い」とは、すすの発生がなく燃料のすべてが燃焼してガス化するということです。カーボン粒子であるすすが発生すると、燃焼室やタービンに付着・堆積します。こうした場所は局所的な高温状態となり、装置の破損を誘発しするため、ジェット燃料には高い燃焼性が求められます。燃焼性の良し悪しは、燃料中の芳香族炭化水素の含有量に影響されます。芳香族炭化水素が多いと燃焼性が低下してすすが発生するため、燃料中の芳香族炭化水素の含有率は上限が定められています。

5. 凍結しにくいこと

飛行機が上空10,000mを航行しているとすると、機外の温度はおよそ-50ºCと極めて低温です。こうした環境下で長時間運用される航空機用の燃料は、当然のことながら凍結しないものでなければいけません。万が一凍結してしまうと、配管が詰まったり粘性が増加して燃料の供給に不具合が出てしまいます。凍結のしにくさは、燃料を冷却していって炭化水素が凍結し始める温度「析出点」によって評価されます。ジェット燃料には、低い析出点をもつ燃料が求められます。

6. 腐食性がないこと

硫黄化合物を含む燃料は、燃焼に伴い硫酸を生じます。硫酸はエンジンの金属部品をサビさせたり腐食の原因となるので、硫黄分の少ない燃料が必要となります。燃料中の硫黄分は、全硫黄分およびメルカプタン類という2つの指標によって表されます。特に、メルカプタン類は腐食性が高いため、全硫黄分よりも厳しい制限が設けられています。

7. 安全性が高いこと

ジェット燃料に限った話しではありませんが、燃料は可燃性物質なので不用意に引火・自然発火しないような安全性が求められます。引火のしにくさは引火点で表されます。引火点とは、炎を近づけたときに引火する最低温度のことなので、引火点が高いほど安全な燃料ということになります。自然発火のしにくさは、発火点を指標としています。発火点とは、炎が無くても燃料が自然に発火する温度です。発火点が高いジェット燃料ほど安全な燃料ということになります。

ジェット燃料の成分と規格

ジェット燃料は、石油から製造される石油製品の一種です。石油を蒸留することでナフサや灯油、軽油、重油などの石油製品が得られますが、このうちナフサや灯油がジェット燃料の主な原料となります。灯油を主成分とするものをケロシン系、灯油とナフサを主成分とするものをワイドカット系とよび、民間航空では主にケロシン系の燃料が用いられます。

石油製品と蒸留温度の違い

先述のように、ジェット燃料には安全性や効率の観点から、厳しい性能基準が設けられています。代表的な規格として、アメリカ材料試験協会(American Society for Testing and Materials: ASTM)のD-1655があります。D-1655ではJet A-1, Jet A, Jet Bという3種が規定されていて、日本の規格JIS K 2209もD-1655に準拠したものになっています(それぞれ1号JET, 2号JET, 3号JET)。

危険物用タンクローリー で運ばれるJET燃料

これまでに、ジェット燃料を見かけたことはわずか1回しかありません。遠目にはガソリンや軽油を運ぶ昭和シェルのタンクローリーのように見えましたが、回転式混載看板を見ると「JET燃料」の文字が。貴重な出会いです。

JET燃料を運ぶタンクローリー
JET燃料を運ぶタンクローリー

タンク下部には「Jet A-1」と記載がありました。JIS規格でいうところの1号が積載されていることになります。

看板には「第2石油類」との記載があります。危険物第4類第2石油類は、引火点21ºC以上70ºC未満の灯油や軽油が該当します。Jet A-1が灯油を主成分とするケロシン系であることと整合的ですね。なお、看板からこのタンクが7室に分けられていることがわかります (1室4kL) 。

タンクローリーの製造会社は、車体後部左に貼られたロゴシールから、東急車輛製造か東邦車輛のいずれかでしょう。

参考文献

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。