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脱硫や土壌硬化に使われる「軽焼マグネサイト」

タンクローリーの積載物紹介シリーズ、第15回は軽焼マグネサイトを取り上げます。「軽焼」の意味や製造方法、軽焼マグネサイトの用途を探っていきます。

低温で焼いて作られる軽焼マグネサイト

軽焼マグネサイトを知るためにはまず、マグネサイトが何かを知る必要があります。マグネサイトとは、菱苦土石(りょうくどせき)とよばれる鉱物の別名です。Magnesiteという名の通り、その組成は炭酸マグネシウム(MgCO3)でマグネシウムを含む炭酸塩鉱物です。中国が主な産出地です。

黄色い部分がマグネサイト(Wikimedia Commons)

このマグネサイトを1000ºC程度で焼成すると、二酸化炭素(CO2)が抜け出て酸化マグネシウム(MgO)が残ります。

MgCO3 → MgO + CO2

このように炭酸マグネシウムを熱分解して得られる酸化マグネシウムのことを軽焼マグネサイトとよんでいます。酸化マグネシウムはマグネシアという別名も持っているので、軽焼マグネサイトのことを軽焼マグネシアとよぶこともあります。

酸化マグネシウムの白い粉末(Wikimedia Commons)

ちなみに、軽焼マグネサイトよりも高温で焼いた重焼マグネサイトというものもありますし、さらに高温で焼いたものは死焼マグネサイトとなります。物騒な名前ですね。

  • 低温焼成→軽焼マグネサイト(light burned MgO)
  • 中温焼成→重焼マグネサイト(hard burned MgO)
  • 高温焼成→死焼マグネサイト(dead burned MgO)

マグネサイトの焼成温度の違いは、酸化マグネシウムの比表面積や活性度に影響を及ぼします。比較的低い温度で焼かれた軽焼マグネサイトは比表面積が大きく、高い反応性を有します[1][2]。この性質を利用して、排煙脱硫装置や土壌硬化剤などに使用されています。

脱硫剤の原料となる軽焼マグネサイト

用途としてまず挙げられるのは、工場で発生する排煙中の二酸化硫黄(亜硫酸ガス(SO 2))の除去(排煙脱硫)剤です。

二酸化硫黄は環境汚染だけでなく配管の腐敗にもつながるため、環境や設備への負荷を抑えるためには二酸化硫黄を取り除く必要があります。脱硫の手法はいくつかありますが、日本では火力発電所等の大型プラントでは石灰石や水酸化カルシウム、化学プラントや中小型ボイラでは水酸化マグネシウムを使うことが多いようです[3]。この水酸化マグネシウムの原料として軽焼マグネサイトが使用されています。

水酸化マグネシウムによる排煙脱硫の流れ[4]

軽焼マグネサイトと水を反応させると水酸化マグネシウム(Mg(OH) 2)が生成します。こうして製造した水酸化マグネシウムを二酸化硫黄と反応させ、亜硫酸マグネシウム(MgSO3)とします。この工程を脱硫における吸着工程とよびます。

MgO + H2O → Mg(OH)2

SO2 + Mg(OH)2 → MgSO3 + H2O

SO2 + MgSO3 + H2O → Mg(HSO3)2

Mg(HSO3)2 + Mg(OH)2 → 2MgSO3 + 2H2O

吸着工程を経た後は、酸化工程に進みます。酸化工程では、空気中の酸素と亜硫酸マグネシウムを反応させて硫酸マグネシウム(MgSO4)が作られます。

MgSO3 + 1/2O2 → MgSO4

Mg(HSO3)2 + O2 → MgSO4 + H2SO4

H2SO4 + Mg(OH)2 → MgSO4 + 2H2O

硫酸マグネシウム(MgSO4)は海水の成分の一種なので、硫酸マグネシウムは排水として海域に放流することができます。

土壌硬化剤としての軽焼マグネサイト

軽焼マグネサイトは、土壌硬化剤としても利用が進んでいます。

水稲栽培が行われる水田には、周囲を取り囲むように畦道が作られています。畦畔とよばれるこの盛土には、水田の水位を一定に保つ保水性や、作業路としての強度などが求められます。

畦畔によって区切られた中国の棚田(Wikimedia Commons)

しかし、単に土だけで畦畔を作っても、モグラやザリガニなどによって漏水したり草刈りの手間がかかるなどの問題があります。また、ポリシート被覆などを利用しても、劣化のために定期的な交換が必要となります。軽焼マグネサイトは、こうした課題を解決するために利用されています。

軽焼マグネサイトは、土中の水と反応すると水酸化マグネシウムを生じます。生成した水酸化マグネシウムはゲル状であり、初期硬化物となります。次に、水酸化マグネシウムは空気中の二酸化炭素と反応して炭酸マグネシウムとなり、さらに強固な硬化物となります。また、長期的には土の成分とのポゾラン反応によって安定な水和物を形成します[5]

MgO + H2O → Mg(OH)2

Mg(OH)2 + CO2 → MgCO3 + H2O

軽焼マグネサイトを原料とする土壌硬化剤は農研機構と東武化学によって共同開発され、マグホワイトという商品名で販売されています[6]

ちなみに、酸化マグネシウムを硬化剤として用いる歴史は古く、中国の万里の長城をはじめ多くの古代建築においてマグネシウムセメントが使用されています[7]

レンガ目地にマグネシウムセメントが利用された万里の長城(Wikimedia Commons)

軽焼マグネサイトを運ぶタンクローリー

軽焼マグネサイトを運ぶ極東開発工業のタンクローリー

軽焼マグネサイトは白色粉体なので、これを運ぶタンクローリーは粉粒体運搬車です。上の写真では、極東開発工業の粉粒体運搬車ジェットパックによって軽焼マグネサイトが運搬されています。排出方式はエアレーションブロー式でしょうか。運輸会社は塩浜工運です。

車両には、危険物や毒劇物などの表示はありません。これは、軽焼マグネサイトが、危険物や毒劇物、指定可燃物などに指定されていないためです。軽焼マグネサイトの主成分である酸化マグネシウムは、胃酸を抑える制酸薬として用いられるほど安全性が高いので[8]、運搬時に特別な規制はかかりません。

軽焼マグネサイトは、安全でありながら高い反応性を持つ機能素材ということです。

参考文献

  1. Mark A. Shand (2006) The Chemistry and Technology of Magnesia, John Wiley & Sons, Preface.
  2. 羽田ほか(2016)酸化マグネシウムの物理化学的特性評価, 先進セラミックス研究センター年報, 5, 44-51.
  3. 道木ほか(2008)新しい排煙脱硫プロセスの開発, 技術革新と社会変革, 1(1), 33-40.
  4. 東洋エンジニアリング株式会社, 排煙脱硫.
  5. 藤森ほか(2000)自然環境にやさしい土壌硬化剤マグホワイ トの開発, 農業土木学会誌, 68(12), 1297-1300.
  6. 農研機構, 軽焼マグネシアを主成分とする土壌硬化剤.
  7. Magnesium Oxide – an overview | ScienceDirect Topics.
  8. 吉村ほか(2017)酸化マグネシウム製剤を経口投与したラットでのマグネシウムの動態解析, YAKUGAKU ZASSHI, 137(5), 581-587.

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