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バキュームカーの構造と開発史

バキュームカーは、糞尿の吸引・運搬を担う特装車両ですが、現在ではほとんど見かけなくなりました。しかし、下水道が整備されていない地域では今でもバキュームカーによる汲み取り作業が行われています。

バキュームカーはどんな仕組みで糞尿を汲み取っているのか、バキュームカーの構造についてみていきます。

バキュームカーの構造

バキュームカーの基本構造
バキュームカーの基本構造[1]

上の図は、新明和工業傘下の東邦車輛製造が製造するVC4型バキュームカーをもとにしたバキュームカーの概略図です。図の中に記載されている主要な装備品の役割は以下の通りです。

─真空ポンプ

バキュームカーはvacuumという名の通り、タンク内部を真空にすることでタンクに接続されたホースから糞尿を汲み取ることができます。タンク内の排気には、真空ポンプが利用されます。真空ポンプは単にタンク内を減圧するだけでなく、吸排切替コックを操作することでタンク内を逆に加圧して内部の糞尿を排出することもできます。

─吸排ボールコック

バキュームカーのタンクにはホースが接続されています。このホースは常に導通しているわけではなく、通常は吸排ボールコックによって遮断されています。タンクが減圧されている状態でボールコックを空けると吸入ができ、加圧されている状態で空けると排出を行うことができます。

─ホースリール

バキュームカーの汲み取りホースは、道路から汲み取り場所までの距離をつなぐためにある程度の長さが必要です。ただ、長いホースはそのままでは運搬が難しいので、タンク上部のホースリールに巻き取って収納しています。長くて太いホースを人力で巻き取るため、ホースリールは電動になっています。

─操作パネル

タンク後部には操作パネルがあります。ここには、吸入と排出の切り替えやスロットルを調整するためのレバーが設置されています。

─脱臭器

汲み取り作業中に周辺環境へ悪臭が広がらないようにするため、脱臭器も備えられています。汲み取り中に吸入した大気は、脱臭器を通って外部へ放出されるようになっています。

─エアフィルター

吸入時に混入するミストは、真空ポンプに入るとオイルやポンプ自体を劣化させてしまいます。そのため、タンクと真空ポンプの間にはエアフィルターが設けられていて、ミストの混入を防いでいます。

バキュームカーの基本構造は吸引車とほとんど一緒ですが、ホースリールや脱臭機などの装備品はバキュームカー独自の設備といえます。

柄杓から真空汲み取り式へ

ところで、バキュームカーは日本で独自に開発された車両です。どういった経緯でバキュームカーが登場したのでしょうか。

バキュームカーが開発される以前、糞尿の汲み取り作業は柄杓を使って手作業で行われていました。また、昭和初期までは肥桶と天秤棒やトラックを使って糞尿が運搬されていました。

明治初期における糞尿運搬の様子
明治初期における糞尿運搬の様子 (違式詿違御布令之訳[2]より)

バキュームカーが誕生したのは第二次世界大戦後、経済安定本部からのお達しによります。糞尿の汲み取りの機械化が勧告され、神奈川県の川崎市において開発が進められました。なぜ川崎市なのかと不思議になりますが、東京や大阪での開発が断られた結果だそうです[3]

川崎市役所の工藤庄八氏が中心となり、犬塚製作所と共同で開発を行ってバキュームカーを完成させました。犬塚製作所は、日本初のタンクローリーを製造したメーカーとしても有名です。

川崎市で登場した初期のバキュームカー
川崎市で登場した初期のバキュームカー (トイレ考・屎尿考[3]より)

バキュームカーはいつ登場したのか

バキュームカーが昭和初期に生まれたことは間違いないのですが、具体的にいつ誕生したのかについては、資料によって記載がまちまちです。

神奈川が所有する過去の映像を集めた「川崎市 映像アーカイブ」[4]では、昭和31年に放送されたニュースにおいて、昭和25 (1950) 年から使用されたことが伝えられています。

また一方、体内から排出された汚物の処理には25年から使用されている真空式汲み取り自動車40台が活躍しています。

川崎市 映像アーカイブ, YouTube[4]

同じく昭和25年に登場したとの記述が『トイレ考・屎尿考』にみられます。

昭和二五年にバキュームカーが開発され、これを契機に機動力による収集運搬が普及してきました。

トイレ考・屎尿考, p5[3]

しかし、開発者本人である工藤氏の談話によると、昭和29 (1954) 年に完成したとされています。

昭和二九年(一九五四)にようやく完成し、国立公衆衛生院の前庭で実験をしました。

トイレ考・屎尿考, P23[3]

また、Wikipediaのバキュームカーのページ[5]では、書籍『バキュームカーはえらかった』と東京新聞の記事を参照元として昭和26 (1951) 年に開発されたとされています。

糞尿汲み取り用のバキュームカーは1951年(昭和26年)川崎市が全国に先駆けて開発・導入し、その後、衛生的であるとの理由で全国へ普及したとされている

バキュームカー, wikipedia[5]

以上のように、バキュームカーが登場した年代は、昭和25年・26・29年という3つの説があります。2つの情報源が支持する昭和25年説が確からしい気がしますが、開発者である工藤氏自身が昭和29年と語っていることが気になります。

参考文献

  1. VACUUM CAR VC, 衛生車(バキュームカー)PDFカタログ, 東邦車輛製造.
  2. 違式詿違御布令之訳 : 京都府第三八五号. 前編, 国立国会図書館デジタルコレクション.
  3. NPO日本下水文化研究会屎尿研究文化会編 (2003) トイレ考・屎尿考, 技報堂出版.
  4. 昭和31年05月16日 皆さんのあと始末 0067, 川崎市 映像アーカイブ, Youtube.
  5. バキュームカー, wikipedia.

1件のコメント

  1. 長江 積

    バキュームカーの汲み取り量はどうして量るのかな?
    メモリがあればどんなものですか?メモリの1目盛りはどれだけかな?

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