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「カーボンブラック」は素材の機能を向上させる炭素粉末

タンクローリーの積載物紹介シリーズ、第16回はカーボンブラックを取り上げます。

キャボットのカーボンブラックを運ぶ東急車輛製造のタンクローリー

煤よりも炭素純度が高いカーボンブラック

カーボンブラック(carbon black: CB)はその名の通り炭素を主成分とする黒色粉末です。ある条件下で炭化水素を燃焼したり熱分解することで生成します。

有機物の不完全燃焼によって生じる煤(すす)と似ていますが、煤は炭素以外に無機成分や有機炭素からなる不均質な物質であるのに対し、カーボンブラックはほぼ純粋な炭素です[1]

上のグラフはカーボンブラックと煤の違いをまとめたものです[2]。カーボンブラックの炭素純度がいかに高いかがわかります。

オイルファーネス法によるカーボンブラックの製造

カーボンブラックは、原料となる炭化水素を熱分解や不完全燃焼することで製造されています。熱分解法は、あらかじめ加熱蓄熱した反応炉内で外熱によって反応を起こす手法で、サーマル法やアセチレン法などがあります。不完全燃焼法は、原料の一部を同一系内で燃焼させる手法で、ファーネス法やランプ法、チャンネル法などが挙げられます。ほとんどのカーボンブラックはファーネス法、特に原料として油を用いるオイルファーネス法によって製造されています[3]

オイルファーネス法におけるカーボンブラック生成のイメージ(旭カーボンのウェブサイト[4]から作図)

オイルファーネス法によるカーボンブラック製造の流れは以下の通りです。まず、反応炉(ファーネス)内で燃料と空気を燃焼させ、1,400ºC以上の高温雰囲気を形成します。ここに原料となる油を噴霧すると熱分解が起き、カーボンブラックが生成します。炉の後方に運ばれたカーボンブラックは噴霧される水によって急冷されて反応を止めます。反応の過程で、カーボンブラック以外に窒素や炭酸ガスなども生産されます。副生ガスを含むカーボンブラックは炉を出たあとにバッグフィルターでガスと分離され、造粒機に送られて0.5-2.0mm程度の球状に加工されます[3]

枕木の腐食防止剤にもなるカーボンブラックの原材料

オイルファーネス法で用いられる原料油は、アスファルテンや硫黄分が少ないものが望ましいとされています。アスファルトの成分として知られるアスファルテンですが、これが多いとカーボンブラックを粗粒化してしまいます。また、硫黄分が多いと設備の劣化や環境負荷が増すだけでなく、カーボンブラックをゴムの添加剤として使う際に悪影響が出ることがあります[3]

カーボンブラックの品質や設備・環境負荷等を考慮し、カーボンブラックの原料油としてクレオソート油やエチレンボトムが用いられます。クレオソート油はコールタールを蒸留して得られる液体で、枕木の腐食防止剤としても用いられています。エチレンボトムはナフサを分解するときにエチレンと共に生じる高沸点留分です。

クレオソート油を染み込ませた枕木(左)と未含浸の枕木(右)(Wikimedia Commons)

タイヤの「黒」はカーボンブラックの色

2019年における国内のカーボンブラック需要は50万トン以上と見込まれています[5]。ただの炭素粉に、なぜこれだけ多くの需要があるのでしょう。

カーボンブラックが産業用素材として最も活躍するのは、ゴムの製造現場です。特に、タイヤの製造にカーボンブラックは欠かせない素材です。以下のグラフはカーボンブラックの国内需要割合(2017年)を示したものですが[5]、タイヤ用が73%、一般ゴムを含むと実に90%以上がゴム製品に用いられていることがわかります。

タイヤ製造にカーボンブラックが用いられるようになったのは、今からおよそ100年ほど前。イギリスのタイヤメーカーが着色用にカーボンブラックを使ったところ、耐久性の向上が確認されました。アメリカのタイヤメーカーB.F. Goodrichがこの技術をもとにタイヤ製造したところ、従来の10倍の耐摩耗性を持つことが確認されました(1914年)。この結果を受けてカーボンブラックの需要は増加し、カーボンブラックによる黒いタイヤが急激に普及することになります[6]

逆に言えば、1900年代初頭までは黒くないタイヤが普通でした。下の写真は1910年式のフォード・モデルTですが、タイヤは黒色ではなく白色です。

1910年式フォード・モデルTのタイヤは白色(Wikimedia Commons)

カーボンブラックの構造と働き

現在では、タイヤの弾性率や耐摩耗性を向上させるための補強材としてカーボンブラックは欠かせない素材となっています。カーボンブラックが優れた力学的補強効果を発揮するのは、その構造に依存しています。

カーボンブラックの電子顕微鏡画像(TEM)と構造(Wikimedia Commons及び三菱化学のサイト[7]から作図)

上の図は、カーボンブラックの電子顕微鏡画像及びそれを模式化したものです。カーボンブラックは、ストラクチャーとよばれる球状の粒子が集合した構造をもちます。また、球状粒子の表面には官能基が存在しており、こうした構造がゴムと相互作用を示したり、またカーボンブラック自体が凝集しようと働くことで、ゴムに力学的補強効果を発揮していると考えられています[8]

また、カーボンブラックは力学的補強効果以外に、タイヤの紫外線劣化を防止する役割ももちます。カーボンブラックは紫外線を吸収する性質を持つため、屋外で紫外線に長期間晒される自動車用タイヤには不可欠な存在といえます。

製法と用途

カーボンブラックの大部分はオイルファーネス法により製造されることはすでに紹介しましたが、他の製造方法が無価値なものというわけではありません。製造方法の違いによってカーボンブラックの構造や成分に変化が出るため、用途によってはオイルファーネス法以外の製法の方が望まれることもあります。

サーマル法は蓄熱した炉の中に原料となる天然ガス(メタン)を吹き込んで熱分解することでカーボンブラックを製造する手法です。原料が天然ガスであるため、純度の高いカーボンブラックを得ることができます。そのため、高純度のカーボンブラックが必要なフッ素ゴム用の配合剤やプラスチックの機能性付与剤として用いられます[3]

チャンネル法は、チャンネル鋼とよばれる鉄材の下で天然ガスを燃焼させて、鉄材下面に付着するカーボンブラックを回収するという手法です。19世紀末にアメリカで確立した長い歴史を持つ製造方法です。収率の低さや環境問題によって現在ではほとんど生産されていませんが、粒子が微細で黒色度に優れるので高級インキ顔料などに用いられているようです。

アセチレン法は、高純度のアセチレンを熱分解することによってカーボンブラックを得る製法です。原料の純度が高いため不純物が少なく、炭素濃度が高いため炭素粒子の衝突が起きやすくストラクチャーが発達した構造を持ちます。こうした特徴は、電池の正極や負極粒子の導電性を高める導電助剤として活用されています[9]

カーボンブラックを運ぶタンクローリー

プラントで製造されたカーボンブラックは、ユーザーの工場にタンクローリーや袋詰めされた状態で運ばれます。カーボンブラックは粉粒体であるため、タンクローリーには粉粒体運搬車が使われます。

キャボットのカーボンブラックを運ぶ東急車輛製造のタンクローリー

上の写真では、東急車輛製造のタンクローリーがキャボットのカーボンブラックを運んでいます。運輸会社は楠原輸送です。

粉粒体運搬車としてよく見かけるのはエアスライド式やエアアジテーション式ですが、この車両はダンプ式です。カーボンブラックは、エアスライドやエアアジテーション機構を設けなくても、十分に排出することができるということでしょうか。

なお、タンクの胴板には「シヨウブラック」と記載されていました。シヨウブラックとは、昭和キャボットが製造販売していたカーボンブラックの商品名です。昭和キャボットは昭和電工とキャボットが合併した会社でしたが、2005年に合併を解消しています[10]。今では貴重な車両です。

参考文献

  1. カーボンブラック ユーザーガイド, 国際カーボンブラック協会(ICBA).
  2. 高槗(2014)カーボンブラックの配合特性, 日本ゴム協会誌, 87(12), 491-495.
  3. 新井(2006)カーボンブラックの製法と特性, 炭素, 223, 232-243.
  4. 旭カーボン, カーボンブラックの製造方法.
  5. 2019年『カーボンブラック』需要見通し(2019)カーボンブラック協会.
  6. 連載(1996)走り続けるカーボンブラック, 日本ゴム協会誌, 69(10), 676-680.
  7. カーボンブラックの3大特性, 三菱化学.
  8. 日本ゴム協会誌編集委員会(2011)ゴム技術の発展について 自動車タイヤはなぜ黒いのか??, 日本ゴム協会誌, 84(12), 387-389.
  9. 和田(2012)二次電池導電剤としてのカーボンの材料設計, 粉砕, 55, 58-62.
  10. カーボンブラック事業の合弁解消について, 昭和電工ニュースリリース.

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