タンクローリーの積載物紹介シリーズ、第9回はダンパワーです。
聞き慣れない物質ですが、ダンパワーとはいったいどんな物質で何に利用されるものなのでしょう。また、ダンパワーを運ぶタンクローリーにはどのような特徴があるんでしょう。
ダンパワーは水の汚れを沈殿させる凝集剤
下水やし尿、工場排水などから汚濁物質を取り除く操作を水処理と呼びます。水処理には、生物化学処理と物理化学処理という2つのプロセスがあります。
生物化学処理は、微生物を用いて有機物を分解除去する水処理法です。一方の物理化学処理とは、中和反応や酸化還元反応、凝集、吸着などによって汚濁物質を除去する方法を指します。
ダンパワーはこの凝集処理に使われる薬剤の商品名で、一般式[Fe2(OH)n (SO4)3-n/2]mで表されるポリ硫酸第二鉄が主成分です。化学品事業を手がける多木化学が販売しています。
なお、日鉄鉱業という企業からもポリ硫酸第二鉄が販売されていますが、こちらは「ポリ鉄」という商品名です。
水処理における凝集のメカニズム
汚水中には、沈殿しにくい微細な粒子が含まれます。微細粒子を集塊化して沈殿除去するために、ポリ硫酸第二鉄のような凝集剤が用いられます。
凝集剤には無機凝集剤と高分子凝集剤という2種類が存在しますが、ポリ硫酸第二鉄は無機凝集剤に分類されます。無機凝集剤の役割は、微細粒子をフロックと呼ばれる塊に成長させることにあります。
通常、微細粒子は帯電しているため、互いに反発しあいバラバラの状態です。ここに無機凝集剤を加えると、電荷が中和されて基礎フロックが生成します。
このフロックではまだ沈殿効率が悪い場合は、さらに高分子凝集剤を加えます。すると、フロック同士が高分子凝集剤によって架橋され、粗大フロックとなって沈殿効率が上昇します。
ダンパワーは鉄系の無機凝集剤
ダンパワー、すなわちポリ硫酸第二鉄は無機凝集剤の一種です。無機凝集剤にもいくつかの種類がありますが、アルミニウムや鉄などの金属塩が多く用いられます。
これらの金属塩は、Al3+, Fe2+, Fe3+などの多価カチオンが微細粒子の荷電を中和し、さらにAl(OH)3やFe(OH)3などの不溶性水酸化物を生成するため、凝集剤としての役割を果たすことができます。
アルミ系の無機凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム (PAC)や硫酸アルミニウム (硫酸バンド) が、鉄系では塩化第二鉄やポリ硫酸第二鉄が知られています。
同じ無機凝集剤であっても種類によって特徴が異なります。ポリ硫酸第二鉄は安価に入手できること、富栄養化の原因になるリンの除去効果を併せ持つことなどが特徴です。
PO43- + Fe43- → FePO4
ダンパワーがFRPで運ばれるワケ
さて、凝集剤としてのポリ硫酸第二鉄の働きがわかったところで、ポリ硫酸第二鉄 (ダンパワー) を運ぶタンクローリーの写真をみてみましょう。
一目見て、このタンクローリーがFRP製であることがわかります。タンクを製造しているのは、富洋レヂン工業。FRP製タンクローリーの国内シェアで国内トップのメーカーです。
ポリ硫酸第二鉄は赤褐色の液体として流通しているので、液体輸送用のタンクローリーが使用されるのはわかりますが、なぜタンクはFRP製なんでしょうか。
ポリ硫酸第二鉄は危険物でも毒劇物でもありません。しかし、ダンパワーを製造する多木化学が公開しているSDS (safety data sheet) では、GHS分類の金属腐食性物質を示すラベルが表示されています。
SDSの「避けるべき条件」という項目では、鉄や銅合金が挙げられています。ポリ硫酸第二鉄は、危険物でも毒劇物でもないが、金属に対する腐食性があるということです。
以上のことをふまえ、多木化学はタンク素材にSUS304以上のステンレス鋼または塩ビ等の合成樹脂の使用を推奨しています。そのため、ポリ硫酸第二鉄を運ぶタンクローリーには、非金属であるFRPがタンクの材質として採用されていたわけです。
硫酸第二鉄はタンクローリーに乗せたのち、目的地では直接ばら撒いたりするのでしょうか?
それとも目的地先にタンクなどがあり、そこに貯蓄という形になるのでしょうか?
回答して頂けたら幸いです