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保温して運ぶアスファルト、常温でも使えるアスファルト乳剤

タンクローリー の積載物紹介シリーズ、第13回はアスファルトです。道路舗装に使われる黒いものというイメージが強いアスファルトですが、いったいどんな物質なんでしょうか。

アスファルトを運ぶタンクローリーやアスファルトディストリビュータの写真を交えつつ、アスファルトの種類や用途についてみていきます。

今も使われる天然のアスファルト

アスファルトとは、「石油を蒸留した際に生じる粘性の高い黒色の残渣」と考えられがちですが、天然に産出するアスファルトもあるので、前者を石油アスファルト、後者を天然アスファルトと呼んで区別しています。

製品として利用されるアスファルトの多くは石油アスファルトですが、天然アスファルトも道路の舗装や顔料などに利用されています。日本が主に輸入している天然アスファルトは、トリニダッド・レイク・アスファルトとギルソナイトです[1]

トリニダッド・レイク・アスファルトは、カリブ海南東部の島国トリニダード・トバゴのピッチ湖から精製されます。耐摩耗性やすべり抵抗性などが高いため、山岳地や寒冷地の道路舗装に利用されます。

トリニダード・トバゴのピッチ湖
トリニダード・トバゴのピッチ湖 (Wikimedia Commonsより)

ギルソナイトは、アメリカのユタ州東部で産出するユインタイトと呼ばれる天然アスファルトの商品名です。いわゆるアスファルトのイメージと違い、黒曜石のように光沢をもった黒色の固体です。顔料の分散性を向上させる特性を持っているため、インクや塗料などに利用されます。

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ギルソナイト (by The Greater Southwestern Exploration Company)

アスファルト製造に利用される中東系原油

天然アスファルトと異なり、原油を精製して得られるのが石油アスファルトです。原油は、含まれる炭化水素の構造によって、パラフィン基原油・ナフテン基原油・混合基原油に分類することができます。

パラフィン、すなわちアルカンが豊富な原油がパラフィン基原油で、ナフテンという環状構造をもつ飽和炭化水素が豊富な原油がナフテン基原油です[2]。中国の大慶原油やインドネシアのミナス原油がパラフィン基原油で、メキシコ原油やベネズエラ原油がナフテン基原油です。混合基原油はパラフィン基とナフテン基の中間的性質の原油で、中東系の原油がこれにあたります[2,3]

パラフィンとナフテンの一種ヘキサンとシクロヘキサン
ヘキサンとシクロヘキサンはそれぞれパラフィンとナフテンの一種

このうち、アスファルトの原料として適しているのはナフテン基原油と混合基原油で、パラフィン基原油からはパラフィンワックスや潤滑油が作られます。日本では中東系の混合基原油からアスファルトが製造されています。

道路舗装に用いられるストレートアスファルト

石油アスファルトは、製造方法の違いによりストレートアスファルト、ブローンアスファルトなどに分けられます。

ストレートアスファルトは、原油を常圧蒸留したあとに残った物質をさらに減圧蒸留して、それでも残渣として残るものを指します。石油アスファルトの大半がストレートアスファルトになります。ストレートアスファルトの6割以上が、道路舗装用に用いられています[4]

ブローンアスファルトは、加熱したストレートアスファルトに空気を吹き込むことで高分子化したものです。ストレートアスファルトと比較して感温性が小さく耐熱性が高いのが特徴です。防水処理や道路の目地材として利用されています。

魔法瓶でのアスファルト輸送

アスファルトが接着剤や防水剤として使用されていた時代、ドラム缶や紙袋に詰めて出荷されていました。のちに道路建築資材としての優位性が認識されるようになり、液体での輸送が始まります。1961年、シェル石油 (現昭和シェル石油) が国内で初めてアスファルトの液体輸送を開始しました[5]

現在では、ほとんどのアスファルトが液体のまま輸送されています。常温では粘性が高いので、出荷基地で175ºCに加熱溶融されてから積載されます[6]

加熱されたアスファルトは、タンカーによる海上輸送か、タンクローリーによる陸上輸送が行われています。高温のままアスファルトを輸送するため、タンカーやタンクローリーは保温機能を有する専用構造となっています。専用タンカーやタンクローリーは魔法瓶のような二重構造をもち、温度低下を抑えて運搬できるように設計されています。

アスファルト溶液を輸送するタンクローリー
アスファルト溶液を輸送するタンクローリー

上の写真は、アスファルト溶液を輸送するタンクローリーを写したものです。写真からはタンクが二重構造を有しているかはわかりませんが、内部には熱々のアスファルトが詰まっているはずです。

アスファルトは道路工事といった公共事業で多用されるため、季節的な需要変動が大きい商品です。そのため、アスファルトの輸送はコストが高くなる傾向にあります。

道路舗装の構造とアスファルト混合物

石油アスファルトの多くは、道路舗装に利用されています。道路舗装とアスファルトの関係をみていきましょう。

以下の図は、一般的な道路の構造を模式化したものです。上から、表層、基層、路盤、路床、路体と分けられます。このうち、表層から路盤までが舗装にあたり、路床や路体は舗装のベースとなる地盤にあたります。

アスファルト舗装道路の構造
アスファルト舗装道路の構造 (阿部1997[7]をもとに作図)

舗装の最上部にあたる表層は、快適安全な路面を提供するとともに、荷重を分散して以下の層に伝達する役割をもちます。基層は表層と路盤の間にあり、路盤の凸凹を整えつつ、表層にかかる負荷を均一に路盤に伝達する役割をもちます。

表層と基層は通常、ストレートアスファルトに砕石や砂などの骨材を混ぜたアスファルト合材 (もしくはアスファルト混合物) によって作られます。アスファルト混合物は、骨材の種類と使用割合によって耐摩耗性やすべり抵抗性などの性質が変わります。例えば、積雪の多い地方では自動車のタイヤにチェーンによる摩耗が大きいため、フィラーと呼ばれる石粉を多く添加した混合物が採用されてます。

アスファルト乳剤とアスファルトディストリビュータ

アスファルト舗装では、アスファルト混合物が表層と基層に利用されていますが、表層と基層や基層と路盤の間にもアスファルトが散布されています。ここでは、乳化剤によってアスファルトが水中に分散したアスファルト乳剤が用いられます。

乳化剤は、水と馴染みやすい親水基と油と馴染みやすい親油基の両方をもった物質です。アスファルトと乳化剤が合わさると、乳化剤の親油基がアスファルトを取り囲み、親水基を外側に向けた構造をとります。親水基は水と馴染みやすいので、アスファルトを水中に分散させることができるというわけです[8]

カチオン系アスファルト乳剤のモデル
カチオン系アスファルト乳剤のモデル (阿部1981[9]をもとに作図)

アスファルト乳剤は乳化剤の働きによって粘性が大幅に低下しています。そのため、通常のアスファルトのように加熱しなくても常温で使用することができます。

アスファルト乳剤の用途としては、プライムコートやタックコートなどが挙げられます。どちらも舗装各面同士の接着を良くする効果があり、プライムコートが路盤面に、タックコートは基層面に散布されます。

アスファルト乳剤の散布に使われるのが、アスファルトディストリビュータです。上の写真は範多機械のディストリビュータで、型式はDSA-Tでしょうか。ディストリビュータの構造についても、今後調べていければと思います。

参考文献

日本アスファルト協会の機関誌「アスファルト」のPDFが無償で全文公開されているので、このページの情報の多くはアスファルトに依拠しています。1号からの目次をまとめたExcelファイルも配布されているので、使い勝手も抜群です。また、日本アスファルト協会のウェブサイトでも、アスファルトの基礎知識が丁寧に解説されています。気になる方は一度のぞいてみてください。

  1. 土居 貞幸ほか (1997) 天然アスファルトと石油アスファルト, アスファルト, Vol. 39, No. 191, 1-33.
  2. 新田 弘之 (2010) アスファルト材料について, アスファルト, Vol. 53, No. 226, 23-30.
  3. 日本アスファルト協会技術委員会 (1995) アスファルト用原油の輸入動向とその製造方法について, アスファルト,Vol. 37, No. 183.
  4. 日本アスファルト協会 (2009) 石油アスファルト内需実績 (品種別細目), アスファルト, Vol. 52. No. 225.
  5. 太田 記夫 (1969) アスファルトの輸送, アスファルト, Vol. 12, No. 67, 10-13.
  6. アスファルトの流通, アスファルト基礎知識, 日本アスファルト協会.
  7. 阿部 忠行 (1997) 道路の種類と舗装構造, アスファルト, Vol. 40, No. 192, 8-14.
  8. 日本アスファルト乳剤協会 (1997) アスファルト乳剤, アスファルト, Vol. 39, No. 191, 34-52.
  9. 阿部 忠行 (1981) 歴青系材料, アスファルト, Vol. 24, No. 129, 10-32.

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