タンクローリーの積載物紹介シリーズ、第10回はM-MDIです。M-MDIとは、ポリウレタンの原料となる物質の一種です。化学的な構造や性質、輸送するタンクローリーの特徴などについてみていきます。
ジフェニルメタンジイソシアネート
M-MDIが何かを知る前に、MDIの意味を知っておきましょう。MDIとはmethylene diphenyl diisocyanateの略語で、日本語ではメチレンジフェニルジイソシアネートとなります。Diphenylmethane diisocyanate (ジフェニルメタンジイソシアネート) という名前もあり、こちらの方がより一般的な呼称です。
MDIには、2,2′-MDI, 2,4′-MDI, 4,4′-MDIという3種類の異性体が存在します。それぞれ、イソシアネート基 (-NCO) という構造が分子内のどの位置に結合するかが異なっています。
このうち、4,4′-MDIが最も広く利用されているMDIです。ポリマーではなくモノマーなので、モノメリックMDIとも呼ばれます。モノメリックMDIは英語でmonomeric MDIなので、これを略すとM-MDIとなります。すなわち、今回紹介するM-MDIは、4,4’の位置に-N=C=O構造を持つジフェニルメタンジイソシアネートということになります。
ポリウレタンの原材料ジイソシアネートの一種
M-MDIはポリウレタンの主原料として使われる物質です。ポリウレタンとはウレタン結合をもつポリマーの総称[1]で、ポリイソシアネートとポリオールを反応させることで合成されます。
ポリイソシアネートとポリオールには多くの種類があるので、これらの配合や成形手法を変えることで多様な製品を生み出すことができます。ウレタン枕やスポンジ、建物の断熱材やブラパッド、塗料や接着剤などなど、これだけ自由で広範囲に利用できるのはポリウレタンだけと言っていいでしょう[2]。
ポリウレタンの原材料となるポリイソシアネートとして、トリレンジイソシアネート (TDI: トルエンジイソシアネート) やジフェニルメタンジイソシアネート (MDI) などが挙げられます[3]。どちらもイソシアネート基を2つ持つ分子 (ジイソシアネート) で、このイソシアネート基とポリオールのヒドロキシ基 (-OH) が付加反応を起こすことでポリウレタンを合成することができます。
M-MDIを輸送するタンクローリー
ここで、M-MDIを輸送するタンクローリーの写真をみてみましょう。タンクローリーのメーカーについては不明ですが、運輸会社は住化ロジスティクスでした。
この写真でまず気になるのは、「危険物」や「毒」といった標識が無いことです。M-MDIは危険物でも毒劇物でもないため、どちらの標識も掲示する必要がありません。ちなみに、ポリメリックMDIは危険物第4類第4石油類に指定されていますので、輸送の際は「危険物」の標識が必要です。
タンクの材質についてはどうでしょう。写真からは材質を特定することはできません。ただ、MDIは腐食性が低く、鉄鋼やステンレスでの輸送が可能[4]なので、このタンクも鉄鋼かステンレスのいずれかだと思われます。
ところで、M-MDIは凝固点が約38ºCと、常温では固体の物質です。このように常温で固まってしまう物質は、加温しながら輸送されます。M-MDIの場合、直接加熱してしまうと変質して製品劣化につながるため、蒸気・温水・熱媒などによる間接加熱装置が必要です[4]。おそらく写真のタンク上部に設けられているものが加熱設備だと思われます。
タンクローリーの加熱装置に関しては情報収集が必要ですね。詳しい文献に出会ったら、また改めて紹介します。