タンクローリーの積載物紹介シリーズ、第19回はポリマセットです。
ポリマセットは紙の強度を上げる薬品
ポリマセットとは、製紙用薬品メーカーである荒川化学工業によって製造されている紙力増強剤の商品名です[1]。紙力増強剤とは、製紙工程において紙の強度向上のために使用される薬品のことです。
ポリマセットは、ポリアクリルアミド(polyacrylamide: PAM)を主成分とする紙力増強剤で、ポリアクリルアミドはアクリルアミド(acrylamide)を重合することで得られます。ポリアクリルアミドは一般に白色の粉末ですが、水溶性であるため製紙用の薬品として広く用いられています。
紙力増強剤の役割
紙の製造は、パルプ・抄紙(しょうし)・塗工・仕上げという4つの工程に分けることができます。まず、パルプ工程で紙の材料となるパルプを製造し、抄紙工程でパルプを漉いて原紙を作ります。この原紙に塗料を塗って表面を滑らかにするのが塗工工程で、最後の仕上げ工程ではカッターで切断して規定の寸法にしたり、一定の長さに巻き取られて製品となります[2]。
抄紙工程では、作業の効率化や紙の機能性向上を目的に様々な薬品が用いられています。これらの薬品のうち、紙の強度向上を目的にしたものを紙力増強剤といいます。
紙の強度は繊維間の水素結合と繊維同士の絡み合いによって発現するため、これらの力を高めることで紙の強度を上げることができます。薬品を用いなくても強度を上げることは可能で、例えば叩解(こうかい)というパルプを機械的にほぐす作業を促進させるとパプルの柔軟性が上がり、繊維間の水素結合が増して紙の強度は向上します。また繊維長の長いパルプを用いることで繊維同士の絡み合いを増やすことでも強度を上げることができます。
ただ、経済性や効率性の問題からこうした手段が取れない、もしくは不十分な場合に、紙力増強剤が必要となります。近年では、繊維の短い古紙の利用割合が増加していることや、印刷速度が高速化していることなどから紙の強度向上は重要な課題であり、紙力増強剤はなくてはならないものになっています。
ポリマセットはポリアクリルアミド系の表面紙力向上剤
紙力増強剤は、抄紙工程のどのタイミングで投入されるかで、内添紙力増強剤と表面紙質向上剤の2つに分類できます。前者は抄紙工程前のパルプに添加され、後者は抄紙された乾燥紙に塗布されています[3]。
紙力増強剤の原料には、でんぷんやポリアクリルアミドが用いられます。これらはいずれも水溶性のポリマーです。紙は水を媒体として製造されるため、紙力増強剤には水溶性のポリマーが求められるわけです。一般に、でんぷんの方が安価で安全ですが、ポリアクリルアミドの方が紙力増強効果が高いという特徴があります。
ポリマセットは、ポリアクリルアミド系の表面紙質向上剤です。ポリアクリルアミドには側鎖にアミド基が存在し、これがパルプのセルロースと密に水素結合を形成することで紙の強度を向上させることができます[4]
ポリマセットの特徴は、分子鎖を一定容積中に高密度に集積させて高分子量化したものです。分子の広がりが抑えられたことで粘性が下がり、高濃度で高速な処理を可能とする薬品です[5]。
ポリマセットを運ぶタンクローリー
それでは、ポリマセットを運ぶタンクローリーをみてみましょう。
写真をみてまず気付くのは、「危」や「毒」等の表示が無いことです。これは、ポリマセットの成分であるポリアクリルアミドが土壌改良剤や化粧品の原料にもなるほど安全な成分で、危険物でも毒物でも無いためです。ただし、ポリアクリルアミドの原料であるアクリルアミドは劇物に指定されているので取り扱いには注意が必要です。
タンク鏡板の下部には「ニュートランスポート」と書かれています。同名の会社は全国各地に存在しますが、トラックのドアに富士地区貨物運送事業共同組合の「富士貨協」マークがあることから、富士貨協の組合員で富士市伝法458-1に所在する会社二ュートランスポートのタンクローリーであることがわかります。この企業はウェブサイトを持っていないようなので詳細はわかりませんが、日本製紙パリピアのグループ会社のようです。
車両の泥除けには、一部見えないものの「Kubo shatai」と書かれていることがわかります。おそらく、この車両の架装を行なった特装車メーカーだと思いますが、該当する会社を見つけられませんでした。
この車体は、粉粒体ではなく液体輸送用のタンクローリーです。ポリアクリルアミドは一般に固体ですが、製品化されたポリマセットは液体なので液体輸送用のタンクローリーが使われています。