タンクローリーの積載物紹介シリーズ、6回目はLNGを取り上げます。LNGとはいったいどんな物質で、運搬用タンクローリーにはどんな特徴があるのかをみていきます。
LNGは-162ºCに冷却されたガス
LNG (Liquefied Natural Gas) とは液化天然ガスの略称です。炭化水素のメタンを主成分とする可燃性の気体を液化したものです。火力発電用の燃料や家庭用の熱源 (いわゆる都市ガス)などに利用されます。
LPガスと名前が似ていますが、LPガスはLiquefied Petroleum Gas、すなわち液化石油ガスのことで、メタンよりも大きい分子プロパンが主成分になっています。こちらも家庭用の熱源 (いわゆるプロパンガス) として利用されますが、火力発電所での燃料としては基本的には使われません。
天然ガスは地中に埋没しているので、油田から石油を掘り出すように、ガス田から天然ガスを取り出します。ロシアやイランが天然ガスの主要産地として知られています。
掘り出した天然ガスは、火力発電や家庭用ガスの燃料として利用するために、貯蔵・輸送する必要があります。ただ、気体のままでは体積が大きく、貯蔵・輸送にコストがかかってしまいます。そこで、天然ガスを-162ºCに冷却して液化し、体積を1/600にまで減少させることで貯蔵・輸送の効率化が図られています。この、液化された天然ガスが、液化天然ガス = LNGなのです。
天然ガスが外国から日本に輸入される時も、液化した状態のLNGとしてタンカーに積載されて運ばれます。タンカーから荷揚げされたLNGは、LNG基地と呼ばれる施設で貯蔵され、そこで気化されたあとにパイプラインを通して火力発電所や各家庭に供給されます。
タンクローリーを使った遠隔地域へのLNG供給
天然ガスがパイプラインで各地に供給されるとなると、タンクローリーの出番は無いような気がします。しかし、実際にはLNGを積んだタンクローリーは存在します。
上の写真は、LNGを積んだ日本車輌製造のタンクローリーです (運輸会社は岐阜県大垣市に本社を置く揖斐川工業運輸) 。
なぜこうしたタンクローリーが走っているのかというと、パイプラインが敷設されていない地域があるためです。これら遠隔地でもボイラーや工業炉などでLNGの需要があるため、タンクローリーを使ってLNGを輸送しています。
ただし、その都度タンクローリーで輸送するとコストがかかるため、運ばれたLNGは2次受入を行うためのサテライト基地と呼ばれる施設に一旦貯蔵されます。このサテライト基地までLNG基地からLNGを運ぶのがタンクローリーの役割です。
なお、タンク内部には高圧ガスであるLNGが積載されているので、タンクには「高圧ガス」の標識 (警戒標) が掲げられています。
日本車輌製造の巨大なLNGタンクローリー
タンクローリーでのLNGの輸送効率を図るためには、タンクを大きくして一度に運べる量を増やす必要があります。しかし、タンクの長さを伸ばすと車検に通らなくなるため、タンクを大きくするにはタンクの径を太くするしかありません。一方で、タンクを大径化すると、重心が高くなるという新たな問題が生じます。
「タンクの重心を抑えつつタンクを大径化する」。この難題に対して日本車輌製造が出した一つの答えが、下の写真のタンクです。中部電力グループのシーエナジーが販売するLNGを、上野輸送が輸送しています。
写真では少しわかりにくいですが、このタンクトレーラーは、タンク中央部のみ径が大きいという特殊な構造をしています。同芯異径胴と呼ばれるこのタンク構造によって、重心を抑えて安定性を確保しつつ最大積載量を増やすことに成功しています。
写真のものは最大積載量が14 t ですが、同じ構造で最大積載量15.1 t のタンクトレーラーも製造されています。これは、国内最大の積載量を誇ります。
LNGタンクセミトレーラに限らず、高圧ガス運送用のタンクはこれまで横型円筒形以外は存在しませんでしたが、本製品は、高圧ガスであり、しかも超低温のLNGを充填する真空断熱二重タンクにこの同芯異径胴を採用しました。
国内最大積載量を誇る15.1ton積LNGタンクセミトレーラ, 日本車輌製造
LNGの需要は近年増加傾向ですので、今後さらに大型化されたタンクが登場するかもしれません。どんな技術が採用されるのか楽しみです。
火力発電や都市ガスの燃料として使われているのですね。マイナス162℃。で冷却されていることも驚きました。タンクローリーの運転手に敬意を表します。