タンクローリーの積載物紹介シリーズ、第5回は水酸化ナトリウムです。危険な薬品というイメージが強いですが、パルプやアルミの製造には欠かせない重要な薬品です。水酸化ナトリウムの用途や、劇物である水酸化ナトリウムを運ぶタンクローリーの特徴についてみていきます。
工業的に重要な水酸化ナトリウム
水酸化ナトリウム (NaOH) は、酸とアルカリの実験から無機分析まで、小学校から高校にかけての化学の授業で頻繁に登場する基礎的な薬品です。
そんなポピュラーな水酸化ナトリウムですが、工業的にも重要な薬品です。ウッドチップからリグニンを除去して植物繊維 (パルプ) を取り出したり、ボーキサイトから酸化アルミニウム (アルミナ) を製造 (バイヤー法) する際には水酸化ナトリウムが必要です。
その他にも、下水や排水の中和剤、プレッツェルや缶詰の製造に至るまで、産業製品や食品の製造といった幅広い用途を持ちます。下のグラフは、2016年の日本における水酸化ナトリウムの需要割合を示したものですが (日本ソーダ工業会)、実に様々な用途に供されることが分かります。
また、日本では2017年に3,990,914 tもの水酸化ナトリウムが生産され、3,387,169 tが消費されています (日本ソーダ工業会) 。学校での化学実験は国内需要の1%にも満たないんじゃないでしょうか。
「苛性ソーダ」か「水酸化ナトリウム」か
水酸化ナトリウムを運ぶタンクローリーでも、品名には苛性ソーダと書かれているケースが多々あります。苛性ソーダとは水酸化ナトリウムの別名です。
ソーダ (曹達) とはナトリウムの意味なので、ナトリウム化合物は以下のような別名を持ちます。
- 水酸化ナトリウム —> 苛性ソーダ
- 炭酸ナトリウム —> 炭酸ソーダ
- 炭酸水素ナトリウム —> 重炭酸ソーダ
重炭酸ソーダ (重炭酸曹達) の略称である重曹は有名ですね。ソーダという言葉は、日本曹達や東ソーといった企業名にも用いられています。
ただ、化学的な物質名は「水酸化ナトリウム」なので、理科や化学の授業では苛性ソーダとは呼びません。しかし、メーカーのウェブサイトでは、カセイソーダ (日本曹達)、苛性ソーダ (東ソー) と表記しています。
要するに、正式名称は水酸化ナトリウムで、苛性ソーダは商品名ということになります。
医薬用外劇物なのに「毒」の表示
水酸化ナトリウムを運ぶタンクローリーには、「医薬用外劇物」と書かれた標識が掲げられています。これは、毒物及び毒物取締法によって水酸化ナトリウムが劇物として規制されているためです。同法第十二条では、白地に赤字で「医薬用外劇物」と表示することが義務付けられています。
また、毒物及び劇物を運ぶ車両には、白地に黒字で「毒」と書かれた標識を掲げなければいけません (毒物及び劇物取締法施行規則第十三条の五) 。そのため、水酸化ナトリウムは毒物ではないのにもかかわらず「毒」と記載されています。
タンクの材質とライニング処理
水酸化ナトリウムは腐食性の強い薬品なので、耐食性の高いタンク素材が必要となります。
ガソリンを運ぶような一般的なタンクの材質は鉄鋼ですが、水酸化ナトリウムの場合は腐食しにくいステンレスが用いられます。また、下の写真の東南興産のタンクはテフロンライニングが施されたタンクのように見えます。
いずれにせよ、水酸化ナトリウムを運ぶには耐薬性の高いタンクが求められます。
液体で流通する水酸化ナトリウム
ところで、水酸化ナトリウムといえば白色で粒状の試薬をイメージすると思いますが、今まで見てきたタンクローリーは粉粒体運搬車ではありません。液体を運搬するタンクローリーです。
これは、水酸化ナトリウムが産業的には液体で流通していることを意味します。日本ソーダ工業会のウェブサイトでも、製品の多くが濃度50%の水溶液で流通している、としています。
水酸化ナトリウムは塩水を電気分解して製造しますが、出来上がるのは濃度30%-35%の「希薄か性ソーダ」なので、これを濃縮して濃度50%に調整して出荷しています。
水酸化ナトリウムを運ぶタンクローリーは、実際には水酸化ナトリウム水溶液を運んでいるというわけです。