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「酸化エチレン」危険だけど医療分野でも活躍する石油製品

タンクローリーの積載物紹介シリーズ、第14回は酸化エチレンをとりあげます。兵器にも用いられるほど危険性の高い酸化エチレンですが、産業的にはどういった分野で活用されているんでしょうか。

酸化エチレンの製造方法や用途についてみていきましょう。

ナフサから生成される酸化エチレン

エチレンオキシド (ethylene oxide: EO) とも呼ばれる酸化エチレンは、分子式C2H4Oで表される環状エーテルです。最も簡単なエポキシドの一種で、非常に高い反応性をもちます。界面活性剤や各種ポリマーの材料になる工業的に重要な物質です。

最も簡単なエポキシドの一種エチレンオキシド
最も簡単なエポキシドの一種エチレンオキシド

天然には、一部の植物や微生物がエチレンの代謝産物として酸化エチレンを生成していますが、排出量としては無視できるほど小さいものです[1]。酸化エチレンのほぼ100%が石油の分留成分であるナフサから製造されています。

ナフサは石油を蒸留して得られる低沸点成分
ナフサは石油を蒸留して得られる低沸点成分

ナフサは石油の低沸点成分で、複数の炭化水素の混合物です。ナフサをクラッキングと呼ばれる操作によって分解すると、アルケンの一種エチレンが生成します。このエチレンを酸化することによって、酸化エチレンを作り出すことができます。

日本では丸善石油化学、三菱油化、三井化学、日本触媒の4社が生産していて、2017年の国内生産量は945,846tにのぼります[2]

酸化エチレンは爆発しやすい可燃性ガス

酸化エチレンは、危険性の高い薬品として良く知られています。沸点が10.7ºCなので常温では気体ですが、この気体の最小発火エネルギーは可燃性ガスのなかで水素、アセチレン、二硫化炭素に次いで低い値です[3]

そのため、他に反応物質がなくても発火エネルギーを与えると容易に爆発が生じます。失敗知識データベースに登録されている事例「A社の施設でのエチレンオキシドによる爆発 」[4] では、酸化エチレンの爆発によって死傷者が出たことが紹介されていることからも危険性が高いことがわかります。

爆発性の高さと反応性の高さを利用して、燃料気化爆弾にも利用されています。

洋上で燃料気化爆弾が爆発する様子(Wikimedia Commons)

ポリマーや界面活性剤の原料になる酸化エチレン

酸化エチレンは爆発性だけでなく反応性が高いのも特徴です。この性質により、他の有機化合物を合成するための中間体として多用されています。

以下のグラフは、IARC Monographsに掲載されていたデータ[1]に基づき酸化エチレンの用途をまとめたものです。最大の用途はエチレングリコールで、これだけで全体の6割以上を占めます。エチレングリコールはポリエチレンテレフタレート、すなわちPETの原材料で、PETボトルやフリースなどの素材となります。

また、界面活性剤の材料としても重要な位置を占めます。界面活性剤は親水基と親油基を併せ持った構造の分子ですが、水に溶けた際の電離の有無によってイオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤 (ノニオン界面活性剤) に分類できます。ノニオン界面活性剤は硬水軟水問わず、電解質の影響も受けにくいという特徴があります。

酸化エチレンが原料とされるのは、ノニオン界面活性剤です。親油基である高級アルコールに親水基として酸化エチレンを付加 (EO付加) することで、界面活性剤が合成されています。

医療用の滅菌ガスとしても活躍する酸化エチレン

酸化エチレンは、その危険性ゆえに医療現場では滅菌ガスとして用いられています。すべての生物に対して殺菌効果を有し、かつ常温で気体であるため、加熱滅菌ができないプラスチック・ゴム製品、光学機器の滅菌剤として使われます。

酸化エチレンが滅菌作用を示すのは、アルキル化作用によります。アルキル化とは、アルキル基を化合物に導入する反応です。微生物を構成するタンパク質や核酸をアルキル化することによって、細胞の代謝や増殖を抑制し微生物を死滅させることができます。

危険性のアピールが充実したタンクローリー

以下は、酸化エチレンを運ぶタンクローリーの写真です。危険性の高い薬品なので、タンクローリーには危険性を伝える様々な表示や標識があります。

酸化エチレンを運ぶ日本特装のタンクローリー

まず目につくのは「毒」の標識。酸化エチレンが医薬用外劇物であることからこの掲示があります。また、液化酸化エチレンは高圧ガス保安法の第2条第4号に該当する高圧ガスであるため、「高圧ガス」の警戒標も設置されています。

さらに、酸化エチレンは可燃性と毒性を併せ持ったガスなので、タンクには赤字で「燃」と黒字で「毒」という表示もあります。

このタンクローリーの運輸会社は日本トランスシティのグループ会社である中部シティフレイトでした。

タンクローリーの泥除けには、日本特装(株)という表示があります。初めて目にした会社名なので会社の公式サイト[5]を覗いてみると、臨時ヘリポートや放射線防護服などが販売されていました。災害や特殊事案向けの商品開発と販売を行っている会社のようです。

サイトの情報のみでは、日本特装がこのタンクローリーにどのように関わっているのかはわかりませんでした。製造元なのか、設計に関わっているのか。どういった関係性なんでしょうか。

参考文献

  1. ETHYLENE OXIDE, IARC Monographs.
  2. 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編 平成29年, 経済産業省.
  3. 橋口 幸雄 (1964) 酸化エチレンの爆発性について, 有機合成化学協会誌, Vol. 22, No. 6, 454-460.
  4. A社の施設でのエチレンオキシドによる爆発, 失敗知識データベース.
  5. 日本特装株式会社.

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